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院長のぐぶやき「しくれのんどりーむ」

『地中海作家と呼ばれる女』 寄稿文

2015年2月 2日 |

   東灘医報への寄稿文           

『地中海作家と呼ばれる女』                                                                           

  ローマ帝国の興亡を詳細に描いた「ローマ人の物語」(全15巻)という大作があります。今まで読んだ本の中で一番の名作は?と訊かれれば、私は「ローマ人の物語」と答えます。昔は、山岡壮八著「徳川家康」が経営者必読書と言われていましたが、今は、「ローマ人の物語」が経営者必読書と言われています。作者は塩野七生(しおのななみ)。イタリアに住み着き、資料を熟読し、計画的に1年に1巻のペースで書くと決め、15年かけて完成させました。目標を定めて困難な状況の中で古文書を読み努力し書き続け、ついに大作を完成させました。その強靭な精神力に敬意を表します。

  中学・高校時代から古代・中世イタリアに魅せられた女性が、学習院大学を卒業後、海を渡ってイタリアへ。イタリアで生活し、古文書を原語で読み漁り、研究を続け、作品を作り上げました。彼女の作品は高い評価を受け、いくつもの賞を受賞しています。

  なぜ、ローマ帝国は千年も続いたのか? この疑問を解決するために塩野七生は書き続けました。「ローマ人の物語」の中には、多くの人生教訓が含まれています。私は 3年かけて「ローマ人の物語」全15巻を読破しました。ゆっくり読書する時間がない、そういう方には、第4巻「ユリウス・カエサル」(ルビコン以前)、第5巻「ユリウス・カエサル」(ルビコン以後)をお勧めします。ユリウス・カエサルは、とても魅力的な人物です。カエサルとは、カルタゴの言葉で「象」を意味します。

  塩野七生、1937年(昭和12年)7月7日、東京生まれ。七夕に生まれたから七生なんです。中学・高校時代からルネサンス、ローマ帝国に興味を持っていた彼女は、学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアへ渡ります。イタリアに住み、地中海を旅して過ごした後、1968年(昭和43年)から執筆活動を開始します。デビュー作品は「ルネサンスの女たち」。初めて書いた長編作品「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」が1970年度毎日出版文化賞を受賞します。この受賞で作家になる決意を固め、その年からイタリアに住み着きます。イタリアで暮らし、イタリアの歴史文化を満喫します。私生活では、イタリア人の産婦人科医師と結婚し一男をもうけますが、その後、離婚。1982年(昭和57年)水の都ヴェネツィアを描いた「海の都の物語」によりサントリー学芸賞を受賞しました。54歳の時、ローマ帝国興亡の物語を15年計画で、年に1巻ずつ出版すると発表。1992年(平成4年)から「ローマ人の物語」執筆開始、同年、第1巻「ローマ人の物語I」を発行し新潮学芸賞を受賞しました。毎年、精力的に書き続け、1999年(平成11年)司馬遼太郎賞受賞、2002年(平成14年)イタリア政府から国家功労賞を授与。2005年(平成17年)紫綬褒章。2006年(平成18年)第15巻「ローマ人の物語ⅩⅤ」を刊行して、シリーズ完結。塩野七生は、69歳になっていました。鉄の意志です、塩野七生、54歳から69歳まで、よく走り続けました、たいしたものです。2007年(平成19年)文化功労者表彰。

  学生時代の塩野七生は、西洋歴史の先生に、しつこく質問して、先生を困らせていたそうです。「古代のローマは古代のギリシャの模倣に過ぎなかったと教科書に書いてありますが、模倣だけで千年も続き、しかも大帝国として繁栄できるわけがないと思いますが?」。先生からは明確な返答は返ってこなかったといいます。資源も富もない小さな都市国家ローマは、どうして地中海世界を制覇できたのか? それが、塩野七生のライフワークとなりました。

  平民からも優れた人材を集め、その人材を元老院を中心とした統治体制の中で活用していくというローマのやり方を、ひと言で表現するなら「組織力」。ローマは、アテネの教訓から「一人の人間の力量に頼る社会は危ない」と学んだ。ローマの強さ『敗者さえも自分たちに同化させること』。戦って勝った後は、かつての敵を迎え入れ、自分たちに同化させて、平等にローマ帝国の一員として働く。このやり方が、ローマ帝国の強大化に大きく寄与しました。

  『人間の行動原理の正し手を、宗教に求めたユダヤ人、哲学に求めたギリシャ人、法律に求めたローマ人』

  地中海世界に魅せられ、イタリア・ローマに住み、77歳になった現在も、精力的に著作活動を続ける塩野七生。地中海作家と呼ばれる彼女の著作からは、多くの教訓を得ることができます。 「指導者に求められる資質は、次の5つである。① 知力 ② 説得力 ③ 肉体上の耐久力 ④ 自己制御の能力 ⑤ 持続する意志。ユリウス・カエサルだけが、このすべてを持っていた」(イタリアの普通高校で使われている歴史教科書より)。塩野七生は、これをもとに「古代ローマ 指導者通信簿」を作成している。多くのローマ人に、ローマと関係の深い3人の男たち(アレクサンダー大王、ペリクレス、ハンニバル)を加えて評価している。その結果、5つの要素すべて満点だったのは 2人だけだった。すなわち、ペリクレスとユリウス・カエサル。

  私はいつも息子の寝顔に語りかけます。『ユリウス・カエサルのように、天才的で強靭で寛容性のある人間になって欲しい』。ユリウス・カエサルは 7月生れです。7月を意味する英語July の語源はユリウス・カエサルです。私の息子の誕生日は 6月27日。出産予定日は 7月2日だったのですが、5日早まって 6月生まれになってしまいました。パパとしましては、ユリウス・カエサルと同じ 7月生まれの方がよかったんですけれど・・・。パパ、ユリウス・カエサル、大好きです。息子には、ユリウス・カエサルのようになってもらいたいと願っています。でもね、我が息子よ、暗殺されるところまでは、似なくていいですよ、長生きして下さい ! ! ? ?                              2015. 1.28.  

Cyclennon  Point : 10(2)      150202      DAY   352       Heart  & Romanticism by  CyclennonDream    

塩野七生を読もう  『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』(上巻)    ~p.188      

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